もはや、日本でタイムマシン経営を成立させるのは無理か

この記事は、TechCrunch Japanに投稿したものです

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先日ジオメディアサミットに、急遽パネリストとして参加する機会があった。当日の詳細は、下記のTechWaveのレポートに掲載されていたUstream配信のアーカイブをご覧頂ければと思うが、そのパネルセッションで出たgumiの国光さんの発言で興味深かったのが、「もう日本でタイムマシン経営は無理」という発言だ。

タイムマシン経営というのは、ソフトバンクの孫さんがネットバブルの頃に唱えていたキーワード。アメリカの最先端事例をコピーして日本にすぐに持ってくれば、アメリカと日本には数年の時差があるのでそれによってあたかもタイムマシンで未来からサービスを持ってきたかのごとく、サービスを成功させることができるというコンセプトだった。

ネットバブルの時代には、米国Yahooを参考にしたヤフージャパンの成功を筆頭に、イートレード証券など、複数の米国の成功モデルが日本に持ち込まれたし、実際その後の日本のネットベンチャーの成功には、米国の成功モデルをブランドごと輸入して日本法人を立ち上げるパターンや、米国の成功モデルを日本向けにコピーしたサービスが多い。


OrkutやFriendsterの流行を参考にサービスを開始したmixiやGREEも、ある意味タイムマシン経営といえるし、現在日本でトップのブログサービスとして認知されているAmebaブログも、サービスとしては海外に比べると数年遅れで開始されたサービスだ。数年遅れで日本でサービスを開始しても、十分に間に合うという意味で、まさにタイムマシン経営が可能だった時代だったといえるだろう。

ただ、このタイムマシン経営による成功パターンは、実はブログやSNSを最後に途絶えつつある。

SNSの次の波として注目された動画共有サービスでは、御存知の通りYouTubeが日本でも日本語版が提供される前からブレイク。YouTubeのブームに触発されてYouTubeクローンとでもいうべき動画共有サイトが雨後の筍のように日本でも開発されたが、YouTubeの天下を崩すことはできなかった(もちろん日本にはニコニコ動画があるが、ニコニコ動画はどちらかというとYouTubeのような動画共有サイトと言うよりは、日本ならではの進化を遂げた新しいサービスといえるだろう)。

さらにYouTubeの次のブームといえるTwitterでも、マイクロブログやミニブログと呼ばれるサービス領域として、日本でも多数のTwitterクローンが登場したが、ほとんどのサービスはTwitterと比較して意味があるほどの利用者を獲得出来ていない。個人的にはAmebaなうの動向に注目しているが、今のところはTwitterに水を開けられつつあるようだ。

その他にも、最近のEvernoteUstreamなど、最近では日本法人が設立される前から日本でブレイクするサービスが増える傾向にあり、日本市場でクローンを作る前に勝負が決まってしまっているケースも多い。このようなタイムマシン経営を難しくしている要因として大きいのが、オープンなAPI公開の流れだろう。

YouTubeにしても、Twitterにしても、英語版しか提供されていなかったサービス初期の頃から日本のエンジニアが日本人向けのサイトや利用環境を早期に構築してしまっていた。特にTwitterにおいては、2007年の段階で日本の携帯電話用のツイッターサービスであるモバツイッター(現モバツイ)がサービスを開始していたが、当時モバツイッターの開発はあくまで個人での実験的サービス。

個人でもAPIを上手く活用すれば、サービスのクローンが作れてしまうと言うのが、TwitterのAPIがいかにオープンかと言うことの証明だろう(アメブロやmixiのiPhone版や中国語版、英語版を、海外の個人エンジニアが作ってしまえるという状況を想像してみてほしい)。

最近では、これにiPhoneアプリのようなグローバルなプラットフォームができてしまったことで、さらに世界同時リリース、同時ブレイクの流れが加速しつつある。いまや、タイムマシン経営の基盤になっていたサービス普及の時差がどんどん埋まりつつあるのだ。

ジオメディアサミットでのテーマだった位置情報サービスにおいても、やはり世界の注目はFoursquareであり、日本でも「ケータイでfoursquare」など、米国で注目されているFoursquareを日本の携帯電話で提供するサービスが登場しつつあり、濃いネットユーザーの間ではFoursquareが国境をあっさり超えてしまった印象もある。

個人的には2008年から開催されていたジオメディアサミットに見られるように、ケータイ国盗り合戦コロニーな生活など、日本では位置情報に関する取り組みがかなり海外に比べると先行していた印象を持っていたが、残念なのはそういった先行していたサービスがあまりAPIなどを上手く活用出来ておらず、海外のエンジニアの力どころか日本のエンジニアの力も自らのサービスに活かせていないようにみえるところだ。

いくら日本の現状のサービスが先進的でも、世界中の開発者がよってたかっていじるサービスと、日本のベンチャー企業が一社単独で開発しているサービスでは、残念ながら長期的な勝負はみえている。せっかく日本で何年も先進的な取り組みをしていたサービスも、このまま放置しておけばガラケーと呼ばれるようになった携帯電話と同様、ガラパゴスサービスと呼ばれてしまいかねない。

この流れに対抗する手段の一つは明確だ。自分たちの取り組みが先進的であると認識しているのであれば、世界中の開発者がよってたかっていじりたくなるようなオープンなAPIを提供することで、さらにその流れを加速させていくことだ。

サービスに対する賛否はあれど、セカイカメラが取り組んでいるのもまさにそういうアプローチの一つだろうし、Lang-8Cacooのように、海外のユーザーに地道に認知され始めているサービスも日本にはある。

いわゆるネットの覇権を争うような巨人の争いに今から日本企業が参戦することは現実的ではないかもしれないが、位置情報に代表されるように、まだまだインターネットの可能性を活かした周辺サービスの発掘は今後も続くだろう。

その時に、「日本では昔から取り組んでいたのに」と日本の片隅でくやしがるのではなく、日本企業自体が世界をリードする存在になれるチャンスはまだまだある。そういう意味では、日本企業はそろそろタイムマシン経営は最初から忘れて、自らがアジアの国々からタイムマシン経営の対象にされるようなサービスを考えることに注力するべきで、アイデアの輸入国から輸出国にならないといけないのだ。

そんな風に考えてしまうのは、私だけだろうか。




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