P2P とビジネスの関係:SOHO が大企業と肩を並べる日

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前回のコラムを読んで、皆さんは「企業の壁を超えた情報共有」についてどういう印象をもたれたでしょうか。


前回のコラムでは、ソニーなどの大企業を事例として紹介したため、大企業のアウトソーシングの話と思われた人も多かったかもしれません。



しかし、企業の壁を超えた情報共有というのは、 SOHO のようないわゆる小規模な企業レベルでの連携においても、非常に意味があります。



■SOHO では大規模な仕事はできない?



SOHO とは「Small Office Home Office」(スモール オフィス ホーム オフィス)の略で、単純に中小企業と解釈されることもあるようですが、通常は「IT を活用して」事業活動を行っている従業員10名以下程度の規模の事業者のことを言います。資格や過去の実績を元に事務所を開設している場合や、在宅ワークを中心としているところまで幅広く対象とされます。



パソコンやインターネットの普及・高度化や、ビジネススタイルの変化により、このような業務形態は拡大を続けています。財団法人日本SOHO協会によると、国内の SOHO としては約500万の事業所(内法人:188万、個人:315万)があり、就労者は1,500万人を超えると言われています。



現状の SOHO の主な業態と言うのは、一般的に企業の下請け的業務であったり、自営業や個人ビジネスに近い事業が中心であると言われています。当然従業員は数名しかいないわけですから、大規模なビジネスはなかなか実現できません。当然他の SOHO や企業と協働して事業にあたることになります。



■企業の壁によるコミュニケーションの質の低下



ここでやはり壁となるのがコミュニケーションの問題です。



現状は、当然メールや電話が連絡手段の中心になります。そうすると、大企業のような情報共有手段が確立している企業と比較すると、どうしても SOHO 間の情報共有というのは質が落ちてしまいます。



SOHO 間ではいわゆるグループウェア的な情報共有が実施できないため、メールによる会議調整も手間もかかりますし、メールによるファイルのやり取りも、ファイルサイズや最新ファイルの管理などの問題が発生してしまうのです。



仮にそれぞれの SOHO の仕事のレベルが大企業のものよりも高かったとしても、この情報共有が上手くいかないために、 SOHO はかなりのハンデを背負ってしまうことになります。



もちろん事務所が近ければ、お互いに頻繁に打合せを持てばよいのですが、当然協働する相手がいつも近くの事務所とは限りません。



ASP 型グループウェアのような手段を活用する場合にも、費用の負担や共有すべき情報と見せてはいけない情報の区分が難しくなり、なかなか上手く行かない場合が多いようです。



■複数の SOHO が一つの企業体として



P2P 型の情報共有手段は、このような問題を解消する手段として注目されています。



「組織の壁」の回で紹介したように、 P2P 型の情報共有手段は柔軟に情報共有の単位を変えられるため、プロジェクト的な運営に適していますし、複数の企業間でセキュリティを保った情報共有を実現できます。



また、そもそも P2P 型のシステムにおいてはクライアントサーバー型の場合と異なり、高価なサーバーやシステム構築が不要ですので、 SOHO としても気軽に利用することができるのです。



冒頭でご紹介したように、近年の終身雇用制度の崩壊により、優秀な人材がどんどんとSOHOの業態を始めるケースが増えています。また、すでにデザインやコンテンツ開発の分野では、企業名ではなく個人名を意識して仕事を依頼することが通常となりつつあります。



P2P 型の情報共有手段によって、 SOHO が企業規模のハンデを乗り越えることができるとしたら。複数の SOHO と大企業が、同じ事業で頻繁に競合するという時代が来るかもしれません。

このブログ記事について

このページは、徳力@アリエルが2003年11月 5日 00:00に書いたブログ記事です。

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