2005/3/25にjapan.internet.comに新しいコラムが掲載されました。
前回に引き続きオーバーレイネットワークに関するコラムです。今回はオーバーレイネットワークの特徴と、それを支える技術について見ていきましょう。
■ID のふり直し
オーバーレイネットワーク上のデータは独自の ID を持ち、その ID によってユーザー(ノード)からアクセスされます。
わかりやすい例を挙げてみます。たとえば Windows のファイル共有では、特定のファイルにアクセスする際、以下のような命名規則(識別方法)が使われます。
サーバー名(またはIPアドレス)フォルダ名ファイル名……(*)
これはデータが存在する「ボックス」を意識しながら、頭の中で名前空間の階層構造を構築してアクセスする方法です。一方オーバーレイネットワークではこのような命名規則を隠蔽し(抽象化し)、データに独自の ID をふり直して、その ID を使ってデータにアクセスする仕組みが提供されます。
■興味があるのはデータの場所ではなくデータそのもの
あるデータを必要とするユーザーは、本来そのデータが実際にどこにあるのか、あるいはどのボックスから提供されるのか、ということよりもデータ自身に興味があるはずです。オーバーレイネットワークには「位置透過性」という性質があり、ユーザーにとってより自然なデータへのアプローチが実現されています。
■位置透過性
データの場所が固定的なクライアント/サーバー型システムとは異なり、オーバーレイネットワーク上では、同じデータが複数のノードに分散されて存在することになります。このようなデータは(*)のようなサーバー名から始まる名前付けに従うと、異なる名前(パス)になりますが、オーバーレイネットワーク上では同一の ID を持つ同一データとして扱われるのです。このようにデータの場所が抽象化され、意識することなくデータにアクセス可能になる特性を、「位置透過性」と呼んでいます。
■オーバーレイネットワークを支える技術
データの所在を意識しないで済むオーバーレイネットワークは、非常に便利に思えます。あるデータが必要になったとき、ユーザーは単にオーバーレイネットワーク上で一意に定まる ID で要求しさえすれば、どこからともなくお目当てのデータが手元に届くからです。
しかし当然ながらオーバーレイネットワークは、多くの技術に支えられて初めて構築が可能となります。たとえばデータの探索です。分散配置されたデータの場所を探す仕事をユーザーがしなくてよくなったということは、つまりオーバーレイネットワーク自身がその仕組みを担っていることを意味します(データ探索の仕組みの詳細についてはのちのコラムで紹介します)。
また、オーバーレイネットワークを支える技術のもうひとつの代表例は、ファイアウォール超え、NAT 越えの技術でしょう。
たとえばユーザーの要求するデータがファイアウォールの背後にある場合、普通であれば直接アクセスするのは困難です。しかし完全なオーバーレイネットワークであれば、そのような場合であっても、ユーザーにはそのことを意識させずにデータを届ける必要があります。ネットワークが持つそれらの障壁をも隠蔽するのが、オーバーレイネットワークだからです。
■P2P テクノロジーが実現するオーバーレイ・ネットワーク
オーバーレイネットワークを実現するために、データ探索、ファイアウォール越え技術を初めとして、数々の要素技術が生み出されました。この要素技術の集合が「P2P テクノロジー」です。言い換えると P2P テクノロジーとは、
「オーバーレイネットワークを実現・最適化するための要素技術の集合」
ということができます。これは筆者が気に入っている P2P テクノロジーの定義です。
次回は、オーバーレイネットワークを実現する P2P テクノロジーの具体例を紹介する予定です。(執筆:岩田真一)