P2P 技術:オーバーレイネットワーク(1)

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2005/3/3にjapan.internet.comに新しいコラムが掲載されました。



P2P の解説記事などで「オーバーレイネットワーク」というキーワードに遭遇することがあります。

オーバーレイネットワークは、

最初はちょっとわかりにくい概念ですが、

P2P 技術を使ったシステムやアプリケーションを理解する際に、

非常に有効な概念なので、ご紹介します。




■重ねるネットワーク



オーバーレイとは「重ねる」という意味です。画像編集ソフトでは、画像に画像を重ねたり文字を重ねたりする場合に用いられる用語です。またアクセサリの加工で「シルバーオーバーレイ」と言えば、ある素材を銀で巻くという意味になります。



この文脈でお分かりだと思いますが、オーバーレイネットワークは「重ねる」ネットワークのことです。具体的には「下位のレイヤを抽象的に扱うためにかぶせたレイヤ(層)」です。 P2P 技術に限定すると、下位のレイヤとは TCP/IP ですので、「IP の抽象化」と言われることもあります。



■IP ネットワークとオーバーレイ・ネットワーク



IP ネットワークはルーター、ハブ、ファイアウォールなどで区切られているのが普通で、セグメント内部のノードが別セグメント内のノードへ接続することは基本的には困難か、あるいは禁止されています。



ネットワークがセグメントに分かれている理由のひとつはネットワークの効率化であり、もうひとつはセキュリティです。このようなセグメントによる分断のないネットワークを実現するため、上位のアプリケーションレイヤで新たに実装されるのが、オーバーレイネットワークです(注)。つまりオーバーレイネットワークはセグメントに分かれた(LAN、WAN、インターネットなどの区別のある)IP ネットワークを隠蔽します。



*筆者注:オーバーレイネットワークは上位レイヤでフラットなネットワークが構築するので、ネットワーク管理者の意図通りにコントロールできないケースがあります。これが P2P アプリケーションがネットワーク管理者に敬遠される点です。 P2P のビジネス適用については今後このコラムでも触れますが、ここでは「P2P アプリケーションには、 LAN 内動作が前提となるアプリケーションとは桁違いのセキュリティが要求される」ということをコメントしておきます。



■オーバーレイ・ネットワークのメリット



基本的に P2P テクノロジーはエンドユーザーの視点に立った技術で、オーバーレイネットワークもその類に漏れません(その反面、管理の視点がおろそかにもなりがちなのは注意すべきポイントです)。 IP ネットワークと比較を行ってみます。



セグメントに分割された IP ネットワークの場合、ユーザーがあるサービスを使おうとしたり、友人にファイルを送ろうとする際、本来の目的とは直接関係のない「ネットワークのセグメント」というインフラの制限を意識しなければなりません。



一方、オーバーレイネットワークはアプリケーションレイヤに位置し、そういった制限を抽象化してしまいます。サービスやアプリケーションごと別のオーバーレイネットワークを持つ実装もあるでしょうし、汎用的なオーバーレイネットワーク上で複数のアプリケーションを構築する方法もあるでしょう。



オーバーレイネットワーク上であれば、 IP ネットワークに存在するセグメントなどを意識せずに、ユーザーは本来の目的に専念できるようになります。これは実際にアプリケーションを使うユーザーにとって、より自然な環境と言えます。



次回も引き続きオーバーレイ・ネットワークに関するコラムをお届けします。

このブログ記事について

このページは、徳力@アリエルが2005年3月 3日 00:00に書いたブログ記事です。

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