P2P の分類再び(2)―同期通信 P2P と非同期通信 P2P(その2)

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前回のコラムでは P2P を通信の仕方によって以下のように分類し、そのうちの同期通信について説明を行いました。



[P2P システム]

 ├ 同期通信 P2P システム  ←前回説明しました

 └ 非同期通信 P2P システム ←今回取り上げます

  ├ 広範囲流通型

  └ 限定範囲共有型



今回は残りの非同期通信 P2P を取り上げます。


非同期通信 P2P では即時性がそれほど要求されないため、同期通信 P2P に比べて、スピードに対する要求はシビアではありません。その分、流通または共有されるスタティックなデータは、受信側で完全に復元される必要があります。



本コラムでは、非同期通信 P2P システムを用途によってさらに「広範囲流通型」と「限定範囲共有型」に類別して紹介します。



■P2P と非同期通信



非同期通信とは、通信を行う両者が時間を合わせなくてもいい通信のことです。つまり、両者が同時にオンラインでいる必要がありません。



皆さんがよく使っている電子メールが典型的な例です。電子メールは、相手がオンラインだろうがオフラインだろうが関係なく送信することができます。また受信時も、送信者がオフラインであっても受信が可能です。これは電子メールサーバーが、文字通り郵便局のように、本人の代理で電子メールを預かっておいてくれるからです。



さて、非同期通信においても、 P2P のメリットが活かされることを解説しましょう。



一言でいうと、 P2P システムの「データをローカルに持つ」という性質が活用されているのです。



データがサーバーに保存されるクライアント/サーバー型アプリケーションでは、クライアントがデータを必要とした場合、その瞬間にサーバーから取得する必要があります。その点 P2P システムでは、データをローカルに持つことができるので、データをあらかじめバックグラウンドで取得しておいて、利用時に備えることが可能となります。



P2P システムでは、 POP サーバーのような固定的なサーバー(一時預かり所)を持たない代わりに、各ノードが互いにその役割を果たします。



つまりデータを作成したノード自身、あるいはそのデータを取得したノードが(二次的な)預かり所(キャッシュ)になるようなイメージです。一時預かり所が固定的ではなく、 P2P ネットワークに参加しているノードすべてが動的にその役目を担うため、スケーラビリティも同時に実現されるというわけです。



では非同期 P2P アプリケーションの具体例について見ていきましょう。



■広範囲流通



P2P のスケーラビリティと流通力が最大限に発揮される分野です。セグメントに区切られていたネットワークを P2P 技術によってフラット化し、その上でデータを流通させる仕組みです。



一時期は P2P の代名詞とまで言われた Napster、Gnutella、 KaZaA などのファイル交換ソフトが証明して見せたのは、まさにこの広範囲ファイル流通でした。



その後 P2P 技術をビジネス用途として使う動きが活発化する中、ファイル交換 P2P ソフトが示した可能性をそのまま受け継いだのが、 CDN(Contents Delivery Network:コンテンツ配信ネットワーク)です。



代表的なアプリケーションには、米国 KONTIKI 社の KONTIKI Delivery Network や、 BitTorrent が挙げられます。最近では Tivo などの STB(セットトップボックス)を持つサービスと BitTorrent が統合されるなど、低コストでのコンテンツ配信は依然注目されています。



またファイル交換ソフトとは異なり、コンテンツの流通測定や DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)をベースとした著作権保護技術の実装が不可欠となっています。



このように広範囲流通 P2P システムは音楽、動画などのコンテンツや広告などの一般的なデータを取り扱います。



■限定範囲共有



一方で Groove 社の Groove Virtual Office やアリエル・ネットワーク社のプロジェクトAは、同じく非同期通信を行う P2P アプリケーションですが、扱うデータが異なります(注)。



これらの製品は一般的にグループウェアに分類されるもので、そこで共有されるデータはそのグループ内で生成され、グループメンバーのみが興味を持つものです。またあるいは、グループメンバー以外には知られたくない極秘情報を扱う場合もあるでしょう。



注:Groove Virtual Office には、音声通話やアプリケーション共有などの同期通信を行う機能もあります。



そのためオーバーレイネットワークを論理的に区切って、グループ単位でのセキュリティが実装されているのが特徴です。ここでは P2P 技術を使った NAT/ファイアウォール透過の機能がポイントになります。



従来のサーバー蓄積型のグループウェアでは、サーバーの設置場所によってアクセスできる人が制限されていました。 P2P 技術により構築されたオーバーレイネットワークは、そのような組織の文字通り「壁」を超えて情報共有が可能になるのです。そして自由になったネットワークの上で、自分たちに都合の良い「壁」を新たに構築することによって、クローズドなバーチャルグループを構築することができます。



組織(NAT/ファイアウォール)を超えて情報を共有したいが、関係者以外には見られたくない、という矛盾した要求に対して、 P2P テクノロジーが解を示しているのがこの分野です。



限定範囲で共有するビジネス情報を扱うため、ユーザーの管理やデータのバックアップ、盗聴、改ざん、なりすまし防止など、より高いセキュリティが求められるのも特徴です。



今回は2つの非同期通信を行う P2P アプリケーションを見てきました。扱うデータや用途によって求められる機能が異なってくるのが、おわかりいただけたでしょうか。



3回に渡って P2P の分類を行ってきました。 前々回がデータの探索方法による分類、そして前回と今回が通信方法による分類です。



今後「P2Pアプリケーション」と称するソフトウェアやサービスを見てピンと来ないときは、この分類方法を試してみて下さい。これらの分類方法がP2Pアプリケーションを理解する上で一つの助けになれば幸いです。(執筆:岩田真一)

このブログ記事について

このページは、徳力@アリエルが2005年6月29日 00:00に書いたブログ記事です。

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